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TPPの強行採決ってどういうこと?

文: POST編集部:執筆・佐藤拓也/編集・今村幸子

ここからは、強行採決について考えてみたいと思います。ただ、強行採決といっても、「いや多数決なんだからいいでしょ」という気持ちもあるかもしれません。

というわけでここでは、多数決から見た民主主義、みたいな感じで考えてみたいと思います。

民主主義の前提-少数派の存在

ざっくり、民主主義の政治としてイメージされるのは、「みんなで、みんなが共通して従うべきルールを決めること」だと思います。

でも、そんなことが、本当にできるのでしょうか。「できるわけがない!本当は全員一致がいいのだけど、現実はみんなバラバラで意見が割れる」。と、いうわけで、よりマシな方法として多数決、と言われます。

しかしそうなってしまうと、「民主主義」なのに、少数派が排除されてもいいことになってしまいます。本当に民主主義を志向するのなら、がんばって全員一致を目指すべきではないのでしょうか? それなのに、現在の選挙制度では、「民主主義は全員一致ではなく多数決だ」となっています。

ここには、民主主義をめぐる重要な考え方があります。それは、「物事を決める際には、常に少数派を内に含んでいた方がいい」という考え方です。全員一致では、少数派は存在しません。しかし多数決では、少数派がいることが前提となっています。つまり、みんなが全く同じ意見にならないときに、どうやって物事を決めようか、その制度的な表現の一つが、多数決であるということです。

言い換えれば、こういうことになります。すなわち、民主主義の政治において、もし選挙の多数決という性質を重んじるのならば、なおさら少数派の取り扱いについて慎重にならなければならないということです。

強行採決って何だろう

この見地からあらためて、強行採決について考えてみましょう。

今回のTPPの採決については、1ページ目でも言ったように、いくつかの重大な問題がありました。まとめると、こんな感じです。

①TPPの中身について、それが日本の生活状況の大きな変化をもたらすものであることが十分予想されるにもかかわらず、その点についての議論は実質ほとんどなされていない。
②国際政治・経済の観点からみれば、TPPの採決を急ぐ理由は端的に少なく、ただ単に中国への対抗姿勢を強調するのみで終わる可能性がある。
③そして山本発言の度重なる失言があり、誠実かつ時間をかけた慎重な議論がより一層求められるなかで、強行採決が行われた。

根本をいうと、TPPというのは条約です。そして条約は、発効するために国会の承認が必要となります。ざっくりいうと、内閣が国会に「これ通したいんだけどいいですか?」とお願いするわけです。この国会がどういう場所かというと、野党という少数派を含んでいる場です(いちおう野党の方が数として多い場合も考えられますが、とりあえず)。

さっきも見たように、多数決の民主主義的な意味は、少数派がいた方がいいのだということです。この立場からすれば、「選挙で勝てば何をやってもいいのか」という点については、ダメということになります。仮に自民党が結構な支持をうけて選挙に勝ったとしても、残りの民進党とかに入れた人たちはやはりそれなりに不服なわけで、議論の余地があります。ようするに、多数決というものの意義を考えれば、そもそも少数派を尊重した議論が求められるわけです。

加えて、TPPについては、内容それ自体に大きな問題があり、より多くの審議時間が必要です。原文での法解釈をどの程度ふまえているのか、アメリカで現大統領候補二名がTPPへの反対を表明していることについてはどう考えるのか。ISD条項について日本の不利が多く指摘されていますがそれについての説明はどうなっているのでしょうか。また山本農水相の度重なる失言のあるなかで採決するのはいかがなものなのか。

日本の政党は、党議拘束が強いのが特徴です。これは、たとえば自民党なら「党としてAに賛成しよう!」と決めたら、その党の議員は党の決定に拘束される、ということです。こういうときに、国会の審議に実質的な内容が伴わず、そのうえで強行採決されてなお「多数決だから強行ではない」というのは、端的に選挙で勝てば何をしてもいい、ということになりかねません。党議拘束で賛成/反対の割合が実質的に決まっていて、そのうえで少数派の意見が尊重されないのならば、数の多い方(賛成)がいつだってそのまま通るからです。

また今回、自民党は”野党の維新が質疑と採決に加わることから「強行採決ではない」として採決に踏み切った” そうです。

しかし当たり前ですが、野党といってもいろいろです。たとえば民意なるもののうち、Aでない意見がかならずBというわけではありません。CもあればDもあるでしょう。いかなる立場を表明し、対抗軸を鮮明とするかも見るべきポイントなわけです。少なくとも、野党らしき政党が一個だけ「賛成」に回ったからといって、それをもって強行採決でない、ということは難しいといえます。

そして、強行採決に際して、野党議員が一回退出したあとでプラカードを持参、それをテレビを意識して掲げたことについて「審議しろよ」といった意見がちらほら見られました。一見、正しいように聞こえますね。

しかし肝心なことは、いま自公政権に国会における圧倒的多数を取られている以上、与党がその気になりさえすれば、憲法を破ることだって、TPPを強行採決することだって、その良し悪しにかかわらず実際にできちゃうのだということです。そういうある種の極限状況のなかで、誰に対して、何をどうアピールするかという観点からみるべきなのです。

そして野党の意図は明らかで、それは「これは強行採決です。少なくとも我々は納得していません」というものです。さっきから言っているように、採決までの道のりで大事なことは、少数派(野党)の声をいかに尊重するかということです。その少数派がこのように「強行採決ですよ」と言っている意味を、少なくとも多数派(与党)は重く受け止める必要があるわけです。

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