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南スーダンって知ってる?② 日本政府は南スーダンをどう見ている?

文: POST編集部

政府は15日、南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)で新任務として「駆けつけ警護」を可能にする実施計画を閣議決定しました。これにより、今月20日から現地へ出発予定の自衛隊部隊は、12月中旬から「駆けつけ警護」、つまり、任務遂行のために自衛を超えて武器を使用することがが可能になります。

前回は南スーダンの現状についてざっくりと簡単にお話ししました。今回は、そうした南スーダンの状況を日本政府はどう見ているのか、ということについてお伝えしていきます。

「南スーダンは紛争状態ではない」?

まず、稲田防衛相と安倍首相の発言、そして政府資料を見てみましょう。

今年9月、稲田朋美防衛相は首都ジュバを7時間視察しました。その視察日には、政府軍と反政府軍による銃撃戦があったにもかかわらず、稲田防衛相は治安について、「落ち着いている」とコメントしました。

国会の答弁でも、「戦闘行為」とは「国際的な武力紛争の一環として行われる、人を殺傷しまたは物を破壊する行為」であるとしたうえで、南スーダンで起きていることは「戦闘行為」ではなく「衝突」であると述べています。
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次に安倍首相は、南スーダンの状況が「永田町よりは危険」だと発言しました。永田町と南スーダンとではあまり意味のない比較ですが、少なくとも「決して安全ではない」ということです。
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その一方で、南スーダンにおける一連の出来事は「衝突」であって法的な「戦闘」、「武力紛争ではない」としました。

 「戦闘をどう定義づけるかということについては、国会などにおいても定義がない。大野さんの定義では”戦闘”となるかもしれないが、我々は一般的な意味として衝突、いわば勢力と勢力がぶつかったという表現を使っている」

さらに、政府の資料である「派遣継続について」には、「我が国における、法的な意味における『武力紛争』が発生したとは考えていない」と記されています。

「派遣継続に関する基本的な考え方」
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201610/__icsFiles/afieldfile/2016/10/25/20161025shiryou.pdf

このように、日本政府は南スーダンの状況について、「武力紛争は起きていない」としています。

そもそも武力紛争って?

しかし、なぜ「武力紛争は発生していない」と言えるのでしょうか。まず武力紛争とは何を指すのかを見てみましょう。

先ほどの「派遣継続について」という政府の資料には、次のような文章があります。少し長いですが大事なので、引用します。

「PKO参加五原則については、憲法に合致した活動であることを担保するものである。この場合、議論すべきは、我が国における、法的な意味における『武力紛争』が発生しているか、であり、具体的には『国家又は国家に準ずる組織の間で行われるものである戦闘行為』が発生しているかである。(これは憲法との関係であり、その意味において我が国独自の問題である)」

つまり、日本政府は「武力紛争」を、「国家または国家に準ずる組織の間で行われるものである戦闘行為」としているということです。そして南スーダンにおいては「国家または国家に準ずる組織の間」での戦いが起きていないと認識し、紛争ではないとしているのです。

しかし今、世界で頻発し問題とされている紛争の多くは、国家間同士のものではなく非国家組織によるものです。

今回の南スーダンについて言えば、大統領派グループ率いる政府軍に対抗しているのは副大統領派のグループになります。しかし、これを「国家に準ずる組織」ではないと言い切れるのでしょうか。紛争の定義がこのままでよいのか、どんな組織を「国家に準ずる組織」とするのかについては、疑問と議論の余地があります。

まとめ

政府は南スーダンへの自衛隊派遣に関し、それは「武力行使ではない」と言っています。そしてその原因として、日本における「紛争」の定義があることを、この記事では指摘しました。

しかし重要なのは、このように言葉の定義を弄ぶことではなく、南スーダンで実際に今何が起きているのか、その実態を直視することでしょう。事実BBCやThe New York Timesでは、南スーダンの状況は、fightやcivil warと表現されており、国際的には紛争であるとされています。

何より日本は「平和国家」としての歩みが戦後から今にいたるまで、曲がりなりにも続いてきました。安保法制を経て、今回の南スーダンへの自衛隊派遣について、もう少し慎重で現実味のある議論が必要なはずです。

前回は南スーダンの現状、今回はそんな南スーダンに対する政府の認識について、確認してきました。

次回は、そもそもPKOとはなんなのか、自衛隊派遣をする際のルールであるPKO五原則や、先日行うことが閣議決定された「駆けつけ警護」について、簡単にご説明いたします。

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