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TPPの強行採決ってどういうこと?

文: POST編集部:執筆・佐藤拓也/編集・今村幸子

TPPに関して、この言葉がまた出てきました。強行採決 。うーん、なんか恐ろしい感じの言葉ですね。「強行」。なんていうか、ハードだ。


ところで先日、友達からこんなこと聞かれました。

「強行採決って何が悪いの? だって選挙で選ばれた人たちが決めてるんでしょ?」
「っていうか強行採決じゃなくて採決でしょ。多数決じゃん。」

なるほど。僕なんかはつい「強行」ってついてる時点でダメじゃねって思ってしまうんですが、そういう感想をもつ人もいるんですね。

とりあえず今回は、「強行採決ってどうなの?」という若干結論ありきな感じのことを、TPPの内容と絡めて考えていきたいと思います。

*TPPの内容など知っとるわい、という方は、次ページから読んでいただければと思います。また、最後のページでは、この記事を書くにあたって参考にしたムービーや記事を紹介しています。

TPPの問題点

強行採決とはなんぞや、みたいな議論に入る前に、さらっとTPPのおさらいをしたいと思います。


まずTPPは、日本の生活にかなりの変化を求めるものです。具体的には遺伝子組換えの表示二次創作などです。
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が、ぶっちゃけ、こんなことはずっと前から指摘されていたことです。問題は、こういったことについての不安が特に解消されないまま採決に踏み切られたことです。

まず、あの黒塗りの文書ですね(のり弁と呼ばれています。あまり美味しくはなさそうですけど)。議論しようにもソースがあれでは議論のしようがないわけです。また、TPPは日本語を用いないという性質上、法解釈のためにも多言語ベースの議論が必要なのですが、日本語をもとにした議論しかなされていないのが現状です。

また、この間の政府の答弁のほとんどは「大丈夫、心配ない」でした。たとえば遺伝子組換えについては「現時点では大丈夫(その後は知らないよ)」、二次創作については「摘発することは少ない(するかも)」。基本的にこれらの言葉は、政府のサジ加減によってどうとでもなるということを意味しています。

「私はやりません」という言葉だけで、権力をもった他人を信頼してはいけません。むしろ、「他人にやらせない」ためにどういう制度的な歯止めをかけていくかが重要なわけです。しかしこういったことについての議論はあまりなされず、採決に踏み切られたのです。


さらに、国際政治・経済の観点からも問題があるといえます。パリ協定に間に合わない一方で発効されるか分からないTPPに集中しているなど、端的に政治方針を間違えている、というのが一つ挙げられるでしょう。

また、アメリカでは大統領候補のドナルド・トランプもヒラリー・クリントンも、TPP反対を表明しています。「日米関係を強固に!」という立場を取っても、日本がわざわざ調印に急ぐ理由はかなり削がれているわけです。

日米関係、ということで、アメリカ(オバマ)の考えを見てみましょう。わかりやすいのがこれですね。これは、TPP調印に際したオバマの声明です。一部、引用します。

“TPP allows America – and not countries like China – to write the rules of the road in the 21st century, which is especially important in a region as dynamic as the Asia-Pacific.”
https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2016/02/03/statement-president-signing-trans-pacific-partnership

ようするに、「中国でなく、アメリカが21世紀のアジア太平洋地域のルールをつくる(to write the rules)こと」ができるようになるのがTPPだということです。明らかにアメリカ(オバマ)からすれば、TPPは対中国を意識した経済圏の創造を目的とするものなわけです。

しかし、(良くも悪くも)重要な近隣諸国である中国との協調なくして、安定した成長は難しいでしょう。そういう国に対抗姿勢をとることがどの程度合理的なのかはかなり難しいところです。少なくとも、後ろ盾のアメリカがTPPに踏み切らない公算の高い現在においては、なおさらです。


さらに、今回の衆議院特別委員会での採決にあたっては、強行採決か否かそれ自体が一つの争点となっていました。

まず、安倍首相のこの発言が話題となりました。
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また、山本農林水産大臣の相次ぐ失言が問題となりました。山本農水相は「強行採決」に言及し、それが野党からの猛反発をくらい、謝罪しました。そしたらしばらくして「冗談を言ったらクビになりそうだった」と発言、これまた問題になりました。加えて、「JAの方々は農水省に来てくれれば、何かいいことがあるかもしれない」と利益誘導を示唆するような発言をしたのです。

民進党をはじめとした野党はこれらの発言をもって対抗姿勢を強め、山本農水相の辞任を要求しました。いうまでもなく農林水産大臣というのは、TPPにあたって最重要ともいえるポジションにあります。彼の大臣としての資質がこのタイミングで問われるということは、当然、TPPの審議にあたって大きな影響を与えるはずです。
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山本農水相

衆議院特別委員会では山本農水相の形式的な謝罪があったのみで、野党の辞任要求は実質的にはねのけられるかたちとなりました。今後彼の辞任があるかないかはまだわかりませんが、少なくとも、こういう失言を放置したうえで採決がなされたのだという事実は忘れてはならないでしょう。

TPPの問題ということで、3つ、見てきました。これらのことに共通して明らかに言えるのは、TPPはもっとじっくり審議されるべきであるということです。

これらのことをふまえて、強行採決とは何かについて、考えてみたいと思います。

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