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連合ってなに?(上智大学教授:中野晃一)

文: 中野晃一/編集:POST編集部

 民進党の支持母体、連合。でも、この前の新潟県知事選では、その連合は与党候補を推してました。うーん、よくわからない・・・。
 左派やリベラルのあいだでは、連合に対する不信が高まっています。でも、それでいいのかしら。ここでは、日本の政治にとってものすごく重要なはずなのに不思議な存在、連合について、上智大学の中野晃一先生に解説していただきます。
 まずは、その連合の基礎となっている労働運動についてのお話から。

そもそも労働組合って?

そもそも労働組合って、何でしょう? それは、働く人たちが団結することによって、労働者の権利を守るものです。具体的には、賃上げや労働条件の改善のために、使用者(経営)と交渉したり、働く人たちの利益に適った政策実現のために政党や政府に働きかけたりします。また、実際には市民の多くが同時に労働者でもあることから、狭い意味での労働運動だけでなく、平和運動など、より広い市民運動を支えていることがあります。

ここで、ちょっと細かい労働組合の種類について見ていきましょう。日本の労働組合は、ふつうは企業別組合を基礎単位とします(単組)。そして、それらが影響力を強めるために、同じ産業で集まって全国的な産業別組合(産別)をつくります。さらに、この産別を束ねたナショナルセンター(全国組織)があります。

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連合は、日本最大のナショナルセンターです。この構図を経営側から見てみましょう。まず、それぞれの企業(例えば東京電力)があり、同じ産業の企業で形成する業界団体(例えば電気事業連合会(電事連))があります。そのうえに、日本経団連があるのです。労働側でもそれに相当して、東電労組(単組)、電力総連(産別)、そして連合(ナショナルセンター)とある、と言えます。

さて、現実には、労働組合もいくつかの深刻な問題を抱えています。そのひとつは、組織率(働く人の組合加入率)の低下です。業種によってばらつきがありますが、戦後すぐは50%を超えていたものが、現在では20%を割っています。

この大きな原因に、非正規雇用(派遣労働や契約社員、臨時職員など)の増加があります。つまり従来の労働組合は、若者や女性に特に多い非正規労働者の受け皿として、充分に機能を果たすことができていないのです。

このことと表裏をなしている問題が、「労働貴族」「御用組合」と批判される、一部の特権的な労働組合幹部の使用者や政府との癒着です。これらの問題については、また後に触れます。

連合のなりたち

ここで、日本最大のナショナルセンターである連合がどうやってできたのか、その経緯をみてみましょう。

連合は、1980年代後半に、当時あった総評同盟という、2つの大きなナショナルセンター(労働組合の全国組織)が統一されてできたものです。

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総評は、官庁や国鉄など公共セクターの労働者を中心としていました。社会党(一部の産別や単組は共産党)を支持し、革新勢力の一角を成していました。加盟していた産別としては、例えば自治労や日教組などがありました。

それに対して同盟は、自動車や電力、繊維・サービス業など、民間企業の労働組合で構成されていました。民社党の支持母体であり、これは公明党とともに、次第に革新から中道に立ち位置を移していった政党です。また、先に触れたように、日本の単組は原則として企業別に組織されています。そのため、労働組合と経営側は実際には、よく言えば協調的な関係、悪く言えば労組幹部と人事部局が癒着し、組合が労務管理に使われている側面さえありました。

では、どうしてこの2つのナショナルセンターは統一したのでしょうか? 最大の理由は、労働組合の弱体化です。高度経済成長を経て労働組合の組織率が下がりつづけ、さらには国鉄や電電公社が民営化されました。その結果、かつて「泣く子も黙る」とさえ言われた総評が弱体化していったのです。そうするなかで、労働界の再編、すなわちナショナルセンターの統一が進められ、連合が誕生したのです。

しかしこのとき、これを労働界の「右寄り」再編として反発した勢力がありました。たとえば、総評のなかでも、自治労から自治労連が、日教組から全教が分裂したのです。その結果、共産党に近い全労連という別のナショナルセンターが作られました。

つまり実際には、今日に至るまで、民進党(旧民主党)や社民党(旧社会党)を支持する連合vs共産党系の全労連というように、ナショナルセンターは分かれているのです。ただ、全労働組合員の7割近くが連合傘下の労働組合に加盟している一方で、全労連のシェアは1割にも満たないので、両者の規模には大きな差があります。

連合内部の多様性

こういう成り立ちからも分かるように、ナショナルセンターは、内部にさまざまな産別や単組を抱えています。連合も現実には決して一枚岩ではなく、旧総評系の左派(自治労や日教組など)と、旧同盟系の右派(電力総連やUAゼンセンなど)に分かれています。

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いちおう、右派も左派も民進党を支持しています。しかし、左派はリベラル系の民進党議員や社民党議員を推している一方、右派に推されている議員のなかには右寄りの民進党議員が少なくありません。政策面でも、例えば、電力総連(東電などの労働組合)を含む連合右派は、原子力を推進しています。一方、連合左派は脱原発の立場で盛んに活動しています。

連合トップを旧同盟系の右派の産別が押さえているために、連合全体が原子力推進派に見られることがありますが、実際にはそうではありません。連合の内部は多様であって、「単一の連合としての意見」が本当にあるというわけではないのです。

総がかり行動の意義

それでは、最近の労働組合と政治の関係はどうなっているのでしょうか? ここでは、「総がかり」の結成と、それに危機感をもつ連合右派を中心に考えていきたいと思います。

もともと総評の流れを汲む連合左派と全労連は、原発問題に限らずさまざまな重要政策において、近い考えをもっていました。しかし、かつて分裂したこともあり、確執がありました。

ですが、安倍政権のもたらした平和憲法の危機に際して、その確執を乗り越えるようになってきました。こうして2014年12月に発足されたのが、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」なのです。

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これは画期的なことです。というのも、自治労や日教組など連合左派が下支えする「1000人委員会」と、全労連(自治労連や全教を含む)など共産系の諸団体が構成する「憲法共同センター」。この二つが、無党派市民の平和運動である「解釈で憲法9条壊すな!実行委員会」と、文字通り「総がかり」で憲法破壊阻止へと力を合わせるようになったのですから。そしてこの総がかり体制は、立憲野党(民進党、共産党、自由党、社民党)による、野党共闘体制の社会的基盤を準備することにもなりました。

しかし、だからこそ「総がかり」の動きは、連合右派の反発と警戒を招いています。右派出身の連合会長をはじめ、「連合」が野党共闘に反対し、横やりを入れるような言動を繰り返すのはこのためでもあります。

本来、雇用のいっそうの非正規化・ブラック化(残業代ゼロ法の制定など)を図ろうとする安倍政権と日本経団連と対峙し、賃上げなどによって労働者の暮らしを守ろうとしるということでは、連合右派も左派も全労連もないはずです。なので、連合左派も粘り強く右派への働きかけを行っています。

しかし今のところ、労働界のさらなる共同の見通しは立っていません。

私たちにできること

もうこの際、連合も民進党もきっぱり左右に割れてしまったほうがせいせいするのではないか、という考えもあるでしょう。たしかに、右派が主導権を握るせいで、民進党が脱原発や野党共闘にはっきりと舵を切れないことには、苛立たしいものがあります。

しかし残念ながら、ことはそんなに単純ではありません。というのも、新自由主義が広まるなかで安易な労働組合バッシングが横行してしまうと、そのバッシングが労働組合そのものに対する攻撃に利用される危険性があるからです。昨今の連合批判も、その意味では気をつけなければならないところがあります。

*新自由主義って?
民営化や規制緩和、公共支出の削減などの「小さな政府」や「自己責任」論、あるいは自由市場の名のもと企業・使用者の利益追求を消費者・労働者の権利に優先させる経済政策のあり方のこと。

本当の問題は、労働組合が、立場の弱い労働者¬―女性や若者に特に多い非正規労働者―を代表するという、本来もっともその役割を発揮すべきことを充分にできておらず、また政治的にも公益に反する特定の業種の狭い利益にとらわれているきらいがあることなのです。一つの原因として、連合トップが、ともすると右派のなかでも使用者べったりの「御用組合」出身の「労働貴族」で占められていることがあげられます。

とはいえ、さっきも言ったように、連合の内部は多様です。実は労働組合の組織率を業種別でみると、電力を含むエネルギー関連産業がもっとも高く、いまだに6割を超えています。他方、公務員は職員数自体がここ20年以上減りつづけているうえに、組織率の下落も進んでいます。このことと、連合内で右派が優位に立っていることは無縁ではありません。ただ単に、労働組合や連合全体を「悪」と決めつけてしまっては、かえって安倍政権とそれにべったりと癒着した日本経団連の高笑いを誘うだけです。

では、どうすればいいのでしょうか? 私たちにできることは、連合や民進党の右派が改憲勢力に合流することをくいとめつつ、連合左派を応援し、連合内外における発言権の強化を後押しすることです。そのためには、労働運動全体にもっともっと女性や若者ら非正規雇用の人びとや、「サービス残業」の蔓延や過労に追い込まれている働き手すべての声を届けて、働きかけ、変えていくことが必要条件となります。

実際には、連合はじめ労働運動すべては、組織率の低下、そしてそれにともなう代表性や正当性の低下に悩んでいます。連合傘下の労働組合や組合員のなかにも、こうした問題意識を強く持ち、また政治とのかかわりで言えば、野党共闘へ向けて建設的な話し合いのできる人がいます。

大切なことは、あきらめずに(そしてダメだと決めつけずに)アプローチしてみることです。ナショナルセンター以下のどこかのレベルで直接働きかけてもいいでしょうし、それが無理ならツイッターなどSNSで要望や叱咤激励の声をあげるのも有効です。

労働運動が真の意味で日本のすべての労働者を代表しようとしないかぎり、経済における労使のバランスも、政治における与野党間のバランスも、回復しようがないのです。それでは経済も政治も、未来が描けません。特に連合は、日本最大のナショナルセンターであり、なおさらその必要があります。労働運動がより広い市民社会の公益を追求するよう「体質改善」するために、私たち市民が労働運動の意義と課題を踏まえて、参加、関与、対話の機会を増やしていくことが重要なのです。

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中野晃一
1970年生まれ。東京大学文学部哲学科および英国オックスフォード大学哲学・政治コース卒業、米国プリンストン大学で博士号(政治学)を取得。現在、上智大学国際教養学部教授。専門は比較政治学、日本政治、政治思想。著書に『戦後日本の国家保守主義――内務・自治官僚の軌跡』(岩波書店)、『右傾化する日本政治』(岩波新書)、『つながり、変える 私たちの立憲政治』(大月書店)

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