参議院選挙に向けて
このような努力のなかで、北海道のムーヴメントは大きくなり、そのなかで投票率の向上をももたらし、結果として、本来は絶望的であるとされたこの補選を、接戦にまで持ち込んだのです。しかし、こうした「参加型の選挙」が実現したにもかかわらず勝てなかったのも、また事実です。「もう少しこの態勢作りが早ければ」、「若者・学生へのアピールをもっと積極的にすれば」という声も、選挙後にはありました。
私たちは、この結果から学ばなければなりません。北海道で見られた、市民参加型の大きなムーヴメントと高い投票率。この景色を、私たちはどのように次の参院選につなげればいいのでしょうか。
昨年の国会前抗議行動の動きを、選挙につなげる
まず間違いなく言えることは、動ける人から動く必要があるということです。これをSEALDsは「150万人の力」と呼んでいます。150万人とは、昨年の安保法制への、全国レベルでの抗議行動に集った人の合計数です(もちろん、その数には諸説あります)。
北海道の補欠選挙で中心になっていた人たちの多くは、この全国レベルの抗議行動への参加者でした。改憲草案、生活保障、そして安保法制などに違和感・危機感をもち、行動し、そして選挙に参加していったのです。彼ら/彼女らの行動は、SNSやマスメディアの反応を呼び、拡散され、それによって「行動」を知った新しい人とのつながりを生み、また新しい行動へとつながるというサイクルをもたらしました。
単純な数字の話をすれば、昨年の夏に動いた人たちが率先して選挙に参加するだけで、100万人規模のムーヴメントとなります。さらに、国会前には集っていないけれど、選挙には行くし、特に前回は野党に入れた人たちを巻き込めれば、この動きはより広がります。そしてこの巨大なムーヴメントの出発地点となるのは紛れもなく、「行動」です。
どのような選挙の景色か?
次に、大きなムーヴメントをつくるためには、街宣などの景色のあり方が重要となることを、北海道の経験は教えてくれます。池田氏の選挙戦では、とくにこの景色のつくり方が非常に特徴的でした。
効果的な景色にはいくつもの効果があります。まず先述の通り、その選挙戦が注目されやすくなるため、SNSやマスメディアを通じて、自分たちの主張を届けやすくなります。そしてまた、その街宣を見る沿道の人々からのまなざしも変わってきます。「あれは一体なんだろう?」と思ってもらえることは、争点や政策以外で、候補(予定)者に関心をもってもらうための第一歩です。
決定的に重要なことは、こうした絵作りの発想は、つねに外の方を向いているということです。選挙は「私たちの声」が何であるかを決定する仕組みであると同時に、「私たちの声」を、代表を通じてつくっていく過程でもあります。そして選挙がどうしても数の闘いである以上、「私たちの声」をつくるということのなかには、「私たち」の範囲を広げていくことも含まれます。
だからこそ、絵作りについても、たとえば統一されたイメージ・カラー(池田氏ならピンク)を用いたりすることはとても大事です。自分たちの行動や応援の仕方が、どのように映っているのか。それは、自分とは異なる誰かが「参加したいな」と思ってくれるような景色になっているのか。一緒に選挙に参加してくれずとも、候補者の印象を良くすることは勝つための第一条件なのだと思います。
池田氏のプロモーションビデオ。人々によりそう暖かい人柄が伝わってくる。
市民がつながること
最後に、改めて、市民どうしがつながることが重要であることを強調したいと思います。
市民がバラバラのままであれば、選対は「支持者の一部」としてしか、市民のことを見てくれないかもしれません。その結果、自分たちの戦略に市民の意見を組み込むことに消極的になってしまうおそれがあります。
北海道では、市民どうしがつながっていくのと同時並行的に、選対と市民のつながりも強くなっていきました。市民がまとまることによって、選対との交渉力が増し、結果として、市民と選対と候補者がつながって、みんなで一丸となって一人の代表をつくりあげるような景色が生まれたのです。
もちろん各選挙区には、それぞれの事情があると思います。とはいっても、目の前に参院選がさしせまっていて、その結果いかんによっては改憲がリアリティを持ってきてしまう。「自民党草案による改憲という最悪のケースが存在する」という危機感を頭のどこかに置いておくことで、自分のなかにある先入観を一旦棚上げするということも、もしかしたら求められるのかもしれません。
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参議院選挙まであと30日を切りました。公示日から期日前投票も可能であることを考えれば、時間はほとんどありません。しかし、この国が民主主義である以上、そして選挙の仕組みが選挙区制、つまり地域単位のものである以上、手段も未来も、私たちの手に委ねられています。「市民が変える、選挙を変える」ー北海道の補欠選挙が、なにより北海道の市民たちが私たちに示してくれたのは、その現実的な可能性なのかもしれません。
(文・山本大地 / 写真・川村拓希、ヤベシンタ)