衆参同日選をめぐる自民党内の対立を経て、いよいよ、7月10日が、参議院選挙の投票日に決まりました。「アベノミクス」や違憲の疑いの濃いなか強行採決された安保法制、そして改憲草案をはじめとした、安倍政権の政治それ自体が問われる重要な選挙です。
この参院選に向けた野党共闘の最初の動きとして、4月末に、北海道5区補欠選挙がありました。残念ながら野党の統一候補である池田まき氏は一歩及ばず、与党公認の和田よしあき氏に、約1万票の僅差で負けてしまいました。
とはいえ、この北海道補選は、学ぶべきところの多い選挙でした。結果をふりかえり、この選挙戦のどこがこれまでと違っていたのか、そして、参議院選挙に向けてどんなところを生かしていけるのかを考えてみたいと思います。
選挙戦を変えたものは何か
今回の北海道5区での野党サイドの選挙戦では、私たちが見慣れた選挙とは、違う景色が見られました。候補者を応援する市民が、どうしたら票が伸びるか、どうしたら自分の支援する候補者を勝たせられるかを、必死になって試行錯誤していたのです。
従来の日本の選挙といえば、選挙期間になると候補者を乗せた選挙カーが街を走ったり、街頭演説などで市民に投票を呼びかけたりというイメージがあると思います。それは、一部の熱狂的な支援者や党員を除けば、私たちにとっては「受け身の選挙」です。
しかし池田氏側の選挙戦は、候補所が市民に対して呼びかけるかたちではなく、市民が候補者を押し上げようとする、いわば「参加型の選挙」だったのです。
この能動的な、市民参加型の選挙は、なにをもたらしたのでしょうか?
「市民が変える、政治を変える」-市民・選対・候補者のつながり
まず北海道では、候補者と市民が一体となる選挙をつくることによって、大きなムーヴメントを演出していました。
街宣の景色からして、これまでの選挙と違っていました。これまでの選挙では、候補者が街宣車の上から市民を見下ろすように説得する、という絵が一般的でした。しかし池田氏の選挙で見られたのは、市民が池田氏を囲む絵だったのです。
アメリカの大統領選について、日本でもバーニー・サンダース氏が話題になりましたが、そこでも池田氏の選挙同様、市民がサンダース氏を囲む絵がつくられていました。「彼こそが私たちの代表である」とでも言うように、です。
このように一体となって闘った北海道補選ですが、じつは最初は、市民どうしはうまく繋がれていなかったといいます。池田まきという候補者を応援するのはいいものの、色々な組織が立ち上がり、その母体となっているところどうしで元々コミュニケーションがうまく取れていなかったりしていたのが原因だったそうです。
しかし改憲への危機感や、昨年の安保法制への全国レベルの抗議行動、そして安倍総理が北海道を訪れるかもしれないとの報などを経て、市民はつながっていきました。ある支援者は、「自分という敵と戦っていた。最初のうちは先入観のせいで他の市民となかなか一緒に戦えなかった」と話していました。「知れば知るほど、その人のことを好きになってしまった」とも。一緒に行動していくなかで、つながりが強固になっていったのです。
投票率の向上
そして、このようにして大きくなったムーヴメントは、結果として、補選の投票率を上げることにもつながりました。
まず北海道の巨大なムーヴメントは、全国からの注目を集めるようになりました。もともと安保法制への国会前抗議行動が波及していたなど、全国レベルで、安倍政権への危機感が少なからず共有されていました。
そのなかで今回の補選は、単なる国会議席の数合わせでは終わらない、重要な意味があると意識されていたのです。TwitterやFacebookで現地の景色が広く拡散されました。また、いくつものLINEグループがつくられ、状況が報告されました。北海道の景色は全国で大きな話題を呼び、通常ならあまり知られることのない補選の存在を、より多くの人に知らせたのです。
さらに北海道の市民たちは、地道な戦略も忘れてはいませんでした。ポスティングをしたり、ポスターを貼るべく商店街を回ったり、ボランティア・スタッフとなったり、公職選挙法の勉強会を開いたり、電話がけをしたり、池田氏を応援するTwitterアカウントやFacebookページを立ち上げたり。池田氏のイメージ・カラーであったピンクを基調とした、「選挙に行こう」と書かれたプラカードを車道に掲げる人もいました。
圧倒的不利からの追い上げ
結果はご存じのとおり、和田氏が勝利しました。しかし票数はわずか約1万票差、得票率も5%差と僅差でした。
もともとこの選挙は、池田氏にとって非常に不利なものでした。今回の補選は、外務大臣や内閣官房長官の経験もある町村信孝氏の死去に伴い行われました。町村氏は、外務大臣や内閣官房長官の経験もある大物議員で、自民党は以前からこの北海道5区で強い基盤を築いていたのです。
こうしたこともあり、今回の補欠選挙で自民党は、町村氏の娘婿(むすめむこ)である和田よしあき氏を擁立しました。さらに、現北海道知事である高橋はるみ氏も和田氏支援を表明していました。
一方、野党側が擁立した池田氏は無所属で、知名度もほぼゼロに等しい状況にありました。無所属の場合は党公認の候補に比べ政見放送そのものが出来ないなどと、そもそもハンデがあります。
こうした圧倒的不利の状況から、約1万票の僅差にまで縮まったことの意味は決して小さくありません。この情勢の変化は北海道を覆っていて、自民党側については議員や秘書を100名以上送り込んだり、熊本地震の対応に追われているはずの安倍総理が自ら北海道に駆け付けようとしたりと、焦りを見せていたほどです。
そして先ほども述べた通り、今回の北海道5区補欠選挙では、前回の衆議院選挙と同じくらいの投票率/得票率だったということです(たとえば2014年12月の衆議院議員総選挙と比べると、投票率はわずか-0.8%。得票数も当時の民主党候補+共産党候補の数字とわずか3,000票差)。「なんだ、あんま変わらないなら意味ないじゃん」と思われるかもしれません。しかし補欠選挙というのはそもそも、通常の衆議院選挙などと比べて報道が控えめで、選挙があることが十分に周知されていなかったり、盛り上がりに欠けていたりすることが多いものです。つまり前回と同じくらいというのは、補欠選挙の特徴を考えれば、実質的には上がっていると言えるのです。
ここには、能動的な選挙の明らかな効果があるように思えます。