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「トランプ大統領」をどう考えればいいの?

文: POST編集部

ここまで、アメリカ政治のなかのトランプ氏の公約や発言をみてみました。そのうえで、トランプ氏の勝因について、すこし考えてみたいと思います。

誰がトランプを支持したのか

トランプ氏の勝因についてはさまざまな理由が予想されます。一つ目の争点として取り上げた社会保障や雇用という点についてみれば、「オバマケア」が議会からの反発もあり中途半端な成果で終わった、疲弊した中間層が反乱を起こした、といったことが言えるかもしれません。この点についてはあとで見てみます。また二つ目の争点について考えれば、アメリカ国内にいまだあるミソジニーや宗教的偏見・移民差別などが働いた面もかなり強くあるでしょう。上にみたように、アメリカ大統領選では文化的な面が重要な要素となりますし、今回の選挙でかなり強くこの点が働いたことは見逃せません。

三つ目の争点について興味深いのは、民主党の大統領候補の座をめぐりクリントン氏と対抗していたバーニー・サンダース氏との類似点です。かれもトランプ氏も共通して、「エスタブリッシュメント」と呼ばれる富裕層を敵視のうえ、国民の生活保障を強調していました。

「小さな政府」の代表格として知られるアメリカで、今回の大統領選を通じて熱狂的な人気を誇った2名が、反「グローバル経済」的であったのです。もちろん、両者は多様性に関する考え方や発言などを見れば対照的で、政策実現性にもかなり差があります。加えて、「反グローバル経済」といっても、トランプ氏が目指すのは「アメリカ第一主義」であるのに対して、サンダース氏が目指していたのはいわば公正なグローバル化というべきものでした。実際サンダース氏は「アメリカの労働者の利益になる通商政策を展開しなければならない」とツイッターで発言しています(別にサンダース氏のせいとは言いませんが、こうした主張を展開したサンダース氏の支持者の一部が、ヒラリー氏でなくトランプ氏の支持にまわったことは忘れてはならないでしょう)。

また、しばしば指摘されるように、かなりのほど「作られた問題」であったにもかかわらず、「メール問題」がクリントン氏に不利に働いたことも考えられます。

では、トランプ氏の勝利をもって、私たちはいったい何を語れるのでしょうか?

トランプが勝った意味

まず強調しておきたいのは、アメリカの大統領には、国家統合の象徴としての意味合いがあるということです。たとえばイギリスに国王がいるように、アメリカには大統領が、制度上、いるのです。

この意味で、今回トランプ氏が勝利したことの意味は、決して小さくありません。「人種のるつぼ」と呼ばれる多文化・多民族国家であるアメリカにおいて、過激な人種・ジェンダー差別発言を繰り返しながら「偉大なアメリカ」復活を語る(“MAKE AMERICA GREAT AGAIN”)候補者が勝利した。そして、そのような人物を支持する層がこれほど多く存在したこと自体が、アメリカ社会の「分断」をあらわしているのです。

もう一つ指摘すべきは、こうした世界的な流れのなかの「トランプ現象」の支持母体として、やはり白人中間層の存在が指摘できるということです。

データを見る限り、トランプ氏を支持したのは何も「貧困層」と呼ばれる人たちではなく、むしろそれなりに所得がある人たちです。トランプ氏が票を特に伸ばしたのはミシガンやオハイオ州などをはじめ「ラスト・ベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれるエリアで、ここはかつて大量生産の時代で栄えたものの、グローバル化にともなう工場の海外移転や、製造業からサービス産業への重点移行によって廃れたとされるところです。トランプ氏が攻撃対象とした黒人やヒスパニック系の人口が少ないところでもあります。

従来のアメリカ社会の経済成長・産業を担ってきて、でも現在は停滞ぎみで社会不安・不満感をいだく白人中間層が、排外主義とともに白人の生活回復をうったえるトランプ氏に票を投じた。そしてトランプ氏は、その白人中間層のありようをにらんでそこに注力した、と言うことができるのかもしれません。この点からみると、アメリカ社会の多様性を傷つけたその背景に、そういった人たちを支えることのできなかった生活保障の機能不全がある、と言えるのかもしれません。

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もちろん、生活保障面、経済や雇用といった面だけでトランプ氏が勝ったわけではありません。今回の選挙で重視された争点としてしばしば指摘されるのは「貧富の差」よりは文化面をめぐるものですし、将来の社会不安が予想される若年層は、傾向としてクリントン氏に票を投じていました。しかし、こうした生活状況の上に、排外的な社会観を語るトランプ氏が注目され、勝ったことは、重く受け止められなければならないでしょう。

トランプ「大統領」のアメリカ、世界と日本

今回は、かなりのラフ・スケッチで、ドナルド・トランプ氏の大統領選勝利について考えてきました。

最初にみたように、トランプ氏はもともと政治家ではありません。アメリカ大統領制では、一見大統領の権限は強大なように見えますが、実際はそういうわけでもありません。今後の周りのスタッフや議会との関係をいかにつくるのかによって、トランプ氏のやりたい政治がどの程度できるのかが決まります。たとえば大統領選と同時進行で行われた議会選挙では、共和党が勝ったものの、この過程でトランプ氏に反対の立場を表明した候補者も見受けられました。

一方、純粋な得票数についていえばヒラリー・クリントンが250万票クラスでトランプ氏を上回っており、この得票数はバラク・オバマに次ぐほどのものです。

「反トランプ運動」ともよべる動きが起きていることも見逃せません。こうした運動は後々広がることが予想され、事実、グローバルな連帯を説く声も多く上がっています。こうした運動は、「トランプ的なもの」をアメリカ統合の原理として認めないものです。一方でアメリカ社会の「分断」を促進するものではあるものの、他方でアメリカ社会がこれまで積み上げてきた規範をもとにした「統合」を求める声であり、今後の「トランプ大統領」の民主的正統性を考えるうえで重要です。

現在、トランプ氏のような「極右ポピュリズム」などと呼ばれる政治の流れは、実は多くの国に共通するものです。これらの現象は、移民排斥を唱えつつ、各国でその勢力を拡大しています。フランスでは極右党が台頭しています。オランダでは来年3月に総選挙を控えていますが、反イスラムを掲げる極右・自由党が驚くほどの支持を集めているそうです。「極右」という流れとは少し異なりますが、イギリスではEU脱退が決まりました(いわゆる “Brexit” )。日本も他人事ではなく、ヘイトスピーチが蔓延するなかで立憲主義を無視するような憲法観をもつ党が議席の最大多数をにぎっています。

トランプ氏の勝利をもって、社会の共通基盤のグラつきが明らかになっているということは言えるでしょう。私たちがこれから生きる世界は、その意味で、これまで歴史のなかで積み上げてきた共有の規範が音を立てて崩れていく世界なのだということができます。また逆に、歴史を振り返りつつ、あらためて規範をつくりだし、積み上げていく時代であるということができるのかもしれません。

オススメ文献

この記事で書ききれなかったことはあまりにも多くあります。たとえば今回は生活保障面から見た感がつよかったため、ポピュリズム論などにはほとんど踏み込めませんでした。また文化面についての解説もあまりできませんでした。

とりいそぎ簡単なものとして、ぜひ読んでほしいものを紹介します。

会田弘継『トランプ現象とアメリカ保守思想―崩れ落ちる理想国家』(2016、左右社)
渡辺将人『アメリカ政治の壁―利益と理念の狭間で』(2016年、岩波新書)
待鳥聡史『アメリカ大統領制の現在―権限の弱さをどう乗り越えるか』(2016年、NHKブックス)
『世界』(2017年1月号)
『フォーリン・アフェアーズ・リポート』(2016年11月号、12月号)

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