7月10日、参院選が終わりました。ここで、その選挙の結果を振り返ってみたいと思います。
参院選の結果は
まず結論からいうと、与党単独による2/3確保はかないませんでした。その意味で、野党共闘を応援してきたリベラル勢力の目標は、とりあえずは達成されたことになります。
しかし、憲法の改正に前向きな勢力(改憲勢力)が、164議席を取りました。参議院全体のうち、3分の2である162議席を超えたことになります。
自民党と公明党の与党が合わせて145議席をとり、そこに、改憲に前向きな「日本のこころ」と「おおさか維新」の15議席を加えて160議席、無所属改憲派が4議席を取りました。
逆に、改憲に反対の民進党は13議席と、大幅に減らしてしまいました。共産党は3議席増やしました。
これまでの話
今回の参院選は、改憲を望んでいる与党である自民党と公明党が3分の2議席をとるかどうかがポイントでした。
改憲をするためには、まずは衆議院と参議院でそれぞれ3分の2以上の賛成議員が必要です。衆議院はすでに与党が過半数を押さえているため、今の与党にとる改憲に反対しているわたしたちは、「⅔を取らせない」を目標としました。
安倍首相のほうは今回の選挙について、「アベノミクスをこれからも推し進めていくかどうかを問うものであり、憲法改正は争点ではない」としてきました。
しかし、与党が勝った途端に、それまで触れてこなかった憲法について「前文から全てを含めて変えたい」と言い出しています。
そもそも参院選とは?
参議院には全部で242の席があります。参議院では議員は6年間勤めますが、3年おきにその半分の121議席が選挙で入れ替えられていきます。
「改選」と「非改選」という用語が出てきますが、
改選・・・今回入れ替えられた議員
非改選・・・まだ任期が残っている議員
をあらわします。
今後の与党は?
憲法を変えることに意欲的な勢力が3分の2をとったので、憲法改正へと向けた議論が行われることは間違いないでしょう。
ただし、与党である自民党・公明党と、おおさか維新とでは、同じ改憲勢力といっても、そもそも憲法観や「憲法改正」についてのスタンスが違うことから、今後は政党間の話し合いや妥協が必要になってきます。
自民党がどのように憲法を変えようとしているかというと、「戦後アメリカから押し付けられたとされるものを捨て、新しく作り直したい」としています。例えば、自衛隊を国防軍にしたり、象徴であった天皇を再び国家の元首としたり、個人よりも家族を重んじるものにしたりということです。権利より義務を強調し、公共の福祉より公の秩序を優先するなど、立憲主義を否定しているという意見が多くあります。戦前回帰と批判する論者も多くいます。
また公明党については、そもそも今回の公約で改憲について言及しておらず、自党の憲法観にかかわらず自民党の改憲に追従していくのではと言われています。
対しておおさか維新の会は、大学までの教育無償化や統治機構改革、憲法裁判所の設置などを改憲については言及しており、「自民党憲法改正草案のままでは反対」であるとも言っています。そもそも目指している方向が違うため、その間で妥当なところを探っていく必要があるということです。
さらに、自民党の改憲案は範囲が広いため、一度に変えていくことはないでしょう。一つずつ国民投票が行われていきます。
いきなり今までタブーとされてきた9条を変えたりすると、国民は拒絶するおそれがあります。まずはハードルの低い、「このくらいなら変えてもいいかな」というところから変えていき、徐々に本当に変えていきたいところに踏み込んでいくと思われます。
これからの政治と選挙
今回の選挙の結果だけを見ると、改憲勢力が勝利し、共闘した野党勢力は負けたように見えます。事実、これから改憲についての議論が始まるのでしょう。
しかし見るべきは、今回もし野党が共闘していなければ、とくに一人区では野党の大敗がより深刻であったということです。昨年からの市民の後押しによって、全国32の一人区で実現した野党統一候補は、3年前の参院選では2つしか勝てなかった所を11に伸ばし、国会に一人でも多くのリベラル議員を送り込むことを成功させました。
また、改憲勢力にとっても、今回の選挙で圧勝できなかったことが、今後の改憲論議にとってネックになると思われます。というのも、上でみたように、あくまで改憲勢力が2/3の議席を確保したとしてもそれは憲法観の異なる勢力との共闘のうえでのものであって、妥協は避けられないからです。
そして今回見られたのは、「市民が参加する選挙のかたち」でした。「選挙を変える、市民が変える」。この市民の動きは、今後の日本の政党政治のあり方を変えていくでしょう。
これらのことから、今回の参院選の結果は、とりあえずリベラル勢力にとっては、敗北というには希望が濃厚で、勝利というにはあまりに多くの課題が残されています。つまり、事実上の延長戦というのがおそらくは正しいのだと思います。
Photo by Yui Hasegawa
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大切なことは、こうした市民の動きをこれからも継続していくことです。都知事選は目前に控えており、衆院選もあります。野党共闘はまだ道半ばと言っていいのかもしれません。
この間見られた市民の動きを、もっと社会に根をおろさせていくことが何よりも大切です。たった一回のみの選挙で終わらない、柔軟で力強い、持続可能な社会・政治文化をつくっていきましょう。