「アベノミクスって、いったんは株価も上がったし、今はちょっと低迷しているけど、何だかバズーカをまた打てば良くなるんじゃないかしら。大企業の業績も良くなったし、少なくとも全体としては悪くなってはいないのだろうから、このまま進めていくべきでしょ?」
そんな風に思っている人も、とても多いんじゃないでしょうか。
総理大臣が「この道を、力強く、前へ」って言ってるし、そうかなと思うのもわかります。 経済って難しいし、株が上がればいいような気がしますよね。
そんなあなたに、今回、7つのことをお伝えしたいと思います。
1アベノミクスといわれる経済政策でもっとも特徴的なものは、政府が日銀をつうじて世の中のお金を劇的にふやしインフレ(物の値段が上がること)を起こせば、それによってみんながお金を使ったり投資が活発になったりして景気が良くなるはずだという金融政策です。
銀行預金をしても金利が付かないのにモノの値段が上がっている状況では、お金をお金のまま持っていても実質的に目減りしてしまうので、そのお金を投資などにまわす動機付けがなされるという理屈です。最近行われはじめたマイナス金利政策は、それをさらに推し進めたものです。
2しかし、まず、こうした金融政策で持続的に景気が良くなりつづけるなら、これは一種の錬金術です。うますぎる話には必ず落とし穴があります。
確かに一度はアベノミクスで株価が上昇しました。それは当たり前です。年金資産の株式での運用割合を高め、年金資産を使って株を買ったのですから。それで株が上がっている間に株を買って今はもう売ってしまったという人は大いに儲かったことでしょうが、それって富裕層を中心とするごく一部の国民に過ぎません。
3これは、国民の年金資産をリスクにさらして政策的に株などの資産価格を釣り上げたにすぎません。そして、ついに2015年度の運用では、国民の年金を運用するGPIFに5兆円を超える運用損が生じたと報じられています。
もちろん、過去には運用益をあげた時期もありましたから、短期的な損益に一喜一憂するのは必ずしもただしくありませんが、問題は、この損失は今後さらに桁が違う規模に大きくふくらむ可能性が高いということです。
4GPIFの運用資産は約140兆円にも上り、あまりに運用規模がおおきいため、株価が下落傾向にあっても、保有している株式の大半を売って利益を確定してしまうということはできません。大量に株を売ると、一気に株価が暴落してしまうからです。一方、すでに株式の運用割合の上限近くまで株を買ってしまっているのでGPIF自身がさらに大量に株を買い増して相場を上げるということもできません。
そのうえGPIFは、国民に年金を支払うために、今後はすこしずつ株を売っていかなければならず、株価の引き下げ要因をみずから作っていくことになるのです。
結局、GPIFは、株価の下落局面ではどうしてもババをひかされやすい「大きすぎる運用主体」なのです。
5国民の年金を危険にさらしてまで資産価格を高騰させ、短期的な好景気を演出したアベノミクスですが、結局のところ、普通に働く私たちにとっては、円安や消費税などにより物価があがったほどには賃金がふえず実質的につかえるお金(実質賃金)はへってしまいました。
一方で、企業の中にたまっているお金である内部留保は、360 兆円に達し、過去 3 年で 70 兆円近くふえています。企業は円安によって円ベースの利益がふえましたが、それを十分に設備投資などの投資や労働者の賃金増にはまわさないからです。
企業は将来への成長期待が描けないため、儲かっても投資に回さない
6働く私たちは同時に消費者ですから、労働者の使えるお金がへれば消費がへります。円安で儲かった大企業等も大してお金をつかってくれません。これでは、実体的な経済はいつまでも良くなりません。結局のところ、アベノミクスで経済的な格差が拡大してしまったことは 消費の低迷をまねき、中長期的に経済におおきなマイナスをのこします。
株で儲けられなかったおおくの人たちにしてみれば、株高と企業業績の増加で景気がいいのかと思っているうちに、円安と消費税で物価はあがり、賃金はそれほどふえず、使えるお金はむしろへり、将来の年金は溶けていきそうな状況です。
7ようやく私たちは気が付きはじめています。「アベノミクス、この道ではない」と。普通のわたしたち自身がもっと幸せになれる経済政策に変えませんか?
労働規制の撤廃や消費増税で、もっともお金をつかう普通の消費者を貧乏にして、その一方でお金をつかってくれない大企業に、法人税減税や租税特別措置という税の優遇をしてあげても、結局経済は良くならないではないですか。私たちには恩恵がこないまま負担ばかりがふえる一方です。
経済を循環させる最大のポイントは、お金をつかう必然がある人に、お金をまわすということです。輸出が大事でないとは言いませんが、国内消費がGDPの大半を占める日本では、私たちが安心してお金をつかえる社会をつくることが一番の経済政策です。
アベノミクス、この道ではない。
もちろん今回は参議院選挙ですから、政権交代や経済政策の大きな転換は生じません。しかし、ここでアベノミクスにすこしでもブレーキをかけておかなければ、さらなる格差の拡大と実質賃金の低下によって、私たちの社会は、回復不可能な状況になってしまうかもしれません。
私たちの日常の小さな幸せを守るために、必ず選挙には行きましょう。
(寄稿 : 水上貴央/弁護士)