Bonus track: そもそも、核兵器禁止条約って?
ここから先は、もうちょっと細かい説明で、核兵器禁止条約に至るまでの経緯を、ざっくりと書いていきます。
まず今回、国連で採決された決議案は
“「核兵器を法的に禁止するための条約(通称、核兵器禁止条約)」の制定を目指すために国連で話し合いの場を設けるかどうか”
を決めるためのものでした。
ようするに、条約を採択”ではなくて“話し合いの場を設けるかどうかを採択したということです。なんか随分とまどろっこしい気もしますが、実はこの段階に来るまでもこれまで紆余曲折がありました。
ちょっとした基礎知識
核兵器の恐ろしさについては、知っている人が多いでしょう。日本では義務教育で必ず習いますし、修学旅行で広島・長崎に行ったり、『はだしのゲン』を読んだりしたことがある人もいると思います。
そんな核兵器ですが、実は、国際法で禁止されていない唯一の大量破壊兵器なのです。核兵器は大量破壊兵器の中で最悪のものと言わていて、この大量破壊兵器は国際人道法によって規制をうけています。
*大量破壊兵器とはその殺傷力、もたらす被害の大きさ、無差別さから他の兵器(通常兵器)と区別するために呼ばれている兵器を指し、他には生物兵器や化学兵器があります。特定の兵器や戦争の手段を条約で禁止することは、国際人道法と呼ばれる法体系に含まれています。武力行使の時の、「やっていいこと」と「やってはいけないこと」の区別の基準です。「やってはいけないこと」と言われる兵器は非人道兵器と呼ばれ、大量破壊兵器の他に、対人地雷やクラスター爆弾があります。
実は、核兵器を除く多くの非人道兵器が、すでに国際法で禁止されています。それでは、なぜ非人道的で、最悪の大量破壊兵器たる核兵器はいまだに禁止されていないのでしょうか?
NPTってなんだろう
現在、核兵器を保有している国は、9つもあります。
でも、核保有国が増えるのはやはり大変なことです。そして、これ以上核保有国の拡散を防ぐために作られたのが、核不拡散条約(NPT)です。
NPTはそれ以外の国を非核保有国と定めました。
NPTは、この5カ国を核保有国として公認したうえで、核軍縮を「誠実に交渉する」義務を負わせ、また非核保有国には保有しないことを定めるものです。したがって、イスラエル・インド・パキスタン・北朝鮮の4カ国は、保有が認められていない核保有国となります。
しかし、核保有国はこれまで核軍縮に「誠実に交渉」してきたとは言えないのが現状でした。4カ国は「5カ国にだけ保有が認められているこの体制は不平等だ」と主張し、この4カ国は実際にNPT体制に参加していません。
NPTは5年おきに会議の場を設けてきましたが、不平等とも言われる体制のもと、核軍縮はなかなか前進しませんでした。
核兵器禁止条約へ
しかし、その流れが大きく転換したのが、2010年4月の赤十字国際委員会の総裁声明でした。
この声明の最大の注目ポイントは、「核兵器の非人道性」に着目したことでした。この視点によって、「核兵器のない世界を達成し維持するための枠組み」と、「核兵器禁止条約」の提案が、「留意」されることになったのです。言い換えれば、今のままではいけないし、核兵器禁止条約はいつか定めるべきだということを各国が認識したのです。
こうして、非核兵器保有国を中心に、「核兵器禁止条約」が国際社会のなかで議論されるようになりました。スイスを中心に核兵器の「非人道性」に関する共同声明が打ち出されました。その流れに並行してノルウェーを中心に核兵器の「人道上の影響」に関する国際会議が行われるようになりました。
で、日本は何をしているの?というのがポイントです。日本はこの流れでどのような立場なのか、気になりますよね。なにせ唯一の戦争被爆国ですし、核軍縮/廃絶をめぐる議論のなかで、日本の位置は重要なものになるはずです。
しかし日本は、基本的には「核兵器の非人道性」を認めていません。アメリカの「核の傘」(アメリカの核兵器の「抑止」によって守られた状態)に入っているので、非人道性を認めるわけにはいかない、というのが日本政府の態度です。
まとめると、こういうことです。核兵器が落とされてから71年、核兵器の数も核保有国も多くなってしまいました。その一方で、近年、「核兵器の非人道性」が国際社会で認識されるようになり、実際に核兵器をなんとかしなくてはならない、という流れが強まりました。核兵器禁止条約はこの流れの上にあるものです。
そして日本はというと「核の傘」の下にあるから、そもそも「核兵器の非人道性」を認めていない、ということです。
今回の一連の解説のために以下を参考にしました。
特に川崎さんの『核兵器を禁止する』は安価に手に入り読みやすいのでオススメです。
※掲載していた写真が反転し、平和祈念像の向きが逆になったまま掲載する不手際がありました。ここにお詫び申し上げます。(編集部)2016/10/31/12:45