10月27日(日本時間の28日)、核兵器を法的に禁止する初めての条約の制定を目指す決議案が国連総会の委員会で採決にかけられ、123か国の賛成多数で採択されました。
しかし、日本はこの決議案に「反対」票を投じました。
これは、どういうことなのでしょう?「核兵器」というワードを聞いた時に皆さんはどんなことをイメージしますか。約71年前の広島・長崎の記憶、北朝鮮の核実験、などなど・・・。日本は世界で唯一の戦争被爆国ですが、今置かれた状況をよく分からない人も多いのではないでしょうか。
というわけで、今回はこの決議について、ざっくりとした解説を行ってみようと思います。
なんで日本は「反対」しているの?
今回、日本が反対に票を投じたということは、一体どういうことなのでしょうか。このことについて、とりあえず2つに分けて、考えてみたいと思います。
①核の傘の下にある唯一の被爆国
今、日本がとっている立場を簡単に表すなら、こうなります。
“核兵器は絶対に廃絶しなければならない。唯一の被爆国として、日本はリーダーシップをもって取り組んでいく。日本の役割は、核保有国と非核兵器国の橋渡し。でも、私たちはアメリカの核の傘に入っているので、核兵器を非人道的な兵器だとは言えないし、核兵器禁止条約も反対する。”
*「核の傘」というのはようするに、アメリカの核兵器に守ってもらっている状況にある、という認識のことです。
「でも」以下が不思議な感じですね。その前までなら分かりやすい話です。つまり、唯一の被爆国として、日本は核兵器に反対するし、そのためにがんばる、ということです。
だけど、アメリカの核の傘の下にあるから、核兵器禁止条約に反対するということです。これは完全に矛盾した話です。だって、核兵器を禁止するルールに、「核兵器は絶対にダメだ! 我々は当事者だからこそ」と言っているその国が反対するわけですから。
これまでの日本の立場は、言ってしまえば「二枚舌」的でした。つまり、核兵器反対を唱えつつ、実質的にはアメリカの核の傘にいる。しかし今回は明確にアメリカの側についたということになります。
②「反対」という立場にたつこと
そう、この点が重要なんです。つまり「反対」としたことで、日本は「橋渡し」どころか、明確に核保有国側に立場を置いてしまったのです。
今回の採決では、核兵器国と非核兵器国の対立関係が、これまで以上にはっきりしました。反対に票を投じた国を見ると、核兵器国とその同盟国が反対しています。
*NPTについては次のページで解説します。
アメリカを中心とした核保有国は、「段階的に核兵器廃絶を目指すべきで、核兵器禁止条約は今日までの段階的な廃絶の努力を無駄にするものだ」と主張しています。これに対して、オーストリアをはじめとした非核兵器国は、「ここ20年間まるで進歩していないではないか」と批判します。
もともと、日本が今回「賛成」に入れることへの期待は低かったといえます。とくにアメリカは、ここ最近、核兵器禁止条約の議論に対して緊張感を持っており、直前にNATO諸国に反対に投じるよう文章も送っていました。日本の「賛成」は、政治的に難しいだろうと思われていたのです。
しかし同時に、唯一の被爆国の日本が「棄権」ではなく「反対」を投じることは、多くの人が予想していませんでした。「棄権」ならまだ中立っぽい立ち位置になれるのに、明確に立場を示す「反対」に入れたのです。
これを受けて被爆者のみならず、世界中の指導者やNGOが驚きと失望の声が出ています。核兵器の「非人道性」が注目されている今、核兵器がどれだけ恐ろしい兵器なのかを被爆者の体験から知る日本こそリーダーシップをもって「人道的アプローチ」を進めていくべきだというのが被爆者やNGOの願いです。
まとめ-核兵器禁止条約は可能なのか
あらためて、今回採択されたのは
“まずは国連の場で話し合いの場を持ちましょう”
という提案です。日本は反対しましたが、提案は賛成多数、これから核兵器禁止条約に向けた議論が本格的に始まります。
今、私たちは何をすればいいのでしょうか? まずやるべきことは、被爆者の声に耳を傾けることです。
被爆者の多くは家族を失い、怪我や放射線による病気に苦しみながらも声をあげています。また、語ることはあの悲惨な光景を思い出すことを意味するため被爆者の精神的苦痛を考えると、話をすることそのものが辛いことであることを私たちは理解するべきです。
何より、被爆者の平均年齢は80歳を超えています。遠からず、私たちが被爆者の声を聞くことはできなくなってしまいます。今、被爆者の語りに耳を傾け、真摯に受け止め、深く考え、核のない世界に向けた責任を、私たち若い世代が継承していかなければならないはずです。
核保有国が核兵器禁止条約に反対する理由も、国際政治の視点から当然考えなければなりません。ただ、まずは被爆者の声に耳を傾け、話し合いのスタートラインをその犠牲の上にしなければなりません。「抑止」の議論の前にやるべきは核兵器がもたらす脅威の大きさを想像することです。
日本はその声を世界に訴えていって欲しい。その行動は必ず世界から支持されるはずです。